こぎん刺しの始め方|道具・キットと伝統模様の刺し方
こぎん刺しの始め方|道具・キットと伝統模様の刺し方
こぎん刺しは、江戸時代の津軽地方で生まれた刺し子技法で、津軽の農民が野良着の保温と補強のために育てた実用の手仕事です。模様は緻密に見えますが、実際に守るのは縦糸の奇数目を拾い、右から左へ刺し、1段終えたら布を180度回すという3つの手順だけで、南部菱刺しが偶数目を拾うのと対照になります。
こぎん刺しは、江戸時代の津軽地方で生まれた刺し子技法で、津軽の農民が野良着の保温と補強のために育てた実用の手仕事です。
模様は緻密に見えますが、実際に守るのは縦糸の奇数目を拾い、右から左へ刺し、1段終えたら布を180度回すという3つの手順だけで、南部菱刺しが偶数目を拾うのと対照になります。
必要な道具も布・糸・針の3点に収まり、布は10cmあたり約70目のコングレス、針は丸いこぎん針を選べば始めやすいでしょう。
初回でつまずきやすいのは目数のずれと渡り糸の締めすぎですが、最初の10cm角のコースター1枚を仕上げるところまで行けば、同じ動作を積み重ねて作品を広げられます。
こぎん刺しとは|津軽で生まれた「目塞ぎ刺し」
こぎん刺しは、江戸時代の津軽地方で生まれた刺し子で、もとは厳しい冬をしのぐための生活の工夫でした。
当時の農民が身につけられたのは麻布で、そこに木綿糸を刺して目を埋め、保温性と丈夫さを補ったのが始まりです。
肩や背中のように傷みやすい場所ほど密に刺されている古い野良着を見ると、装飾より先に補強の技法だったことがよくわかります。
「こぎん」は津軽で野良着を指した言葉
「こぎん」という呼び名は、津軽で野良着を指した言葉に由来します。
つまり、こぎんに刺す技法だからこぎん刺しであり、最初から日常着のための手仕事だったわけです。
人に説明すると「刺繍ですか?」と聞かれて言葉に詰まることがありますが、図案を描くのではなく布の目を数えて塞ぐのだと伝えると、「じゃあ算数だ」と納得されることが少なくありません。
美術品から入ると難しく感じますが、実用品から出発したと知るだけで、ずいぶん取り組みやすくなるでしょう。
藍の麻布に白い木綿糸を刺した理由
基本の配色は、藍染めした紺の麻布に白い木綿糸を刺す形です。
紺地に白がはっきり浮かぶので、細かな幾何学模様がくっきり見え、模様の種類や配置の違いも読み取りやすくなります。
現代のキットでもこの組み合わせが定番として受け継がれているため、最初の1枚を選ぶときは、まずこの配色を基準にすると迷いにくいです。
藍と白の強いコントラストは、こぎん刺しの素朴さと端正さを同時に見せてくれます。
菱刺し・庄内刺し子との棲み分け
日本三大刺し子は、津軽こぎん刺し・南部菱刺し・庄内刺し子の3つです。
このうちこぎん刺しと南部菱刺しは、布目を塞ぐように刺すため「目塞ぎ刺し」と総称され、模様を描く一般的な刺し子とは性格が少し異なります。
決定的な違いは、こぎん刺しが縦糸の奇数目(1・3・5・7)を拾うのに対し、南部菱刺しは偶数目(2・4・6)を拾うことです。
見た目が似ていても、数える筋道が違う。
そこが両者を分ける核心であり、こぎん刺しを学ぶときは「奇数を数える」感覚を最初に体に入れておくと、後の図案読みがぐっと楽になります。
最初のゴールは10cm角のコースター1枚で十分です。
大きな作品も同じ動作の積み重ねなので、1枚仕上げれば技法の全体像はつかめるでしょう。
揃える道具と材料|布・糸・針の3点が基本
こぎん刺しを始めるなら、まず布・糸・針の3点だけをそろえれば足ります。
刺しゅう枠は使わず、布を持ち替えて回転させながら進めるほうが手が止まりません。
初回は道具を増やさず、コングレス、先が丸いこぎん針、こぎん糸か25番刺しゅう糸に絞ると迷いが減ります。
布はコングレス1択から始めていい
コングレスは綿100%の平織りで、10cmあたり約70目、18カウントの布です。
目が数えやすい太さに織られていて、こぎん刺し用として流通している標準布なので、最初の1枚に選べば十分です。
余計な候補を並べるより、まずこの布で「布目を拾う感覚」を体に入れたほうが上達が早いでしょう。
布には縦横と表裏があります。
両端を引っ張って伸びる方向が横、伸びない方向が縦で、平らな面が表です。
こぎん刺しは縦糸をすくって模様を作るため、この見分けを外すと図案の向きがずれます。
刺し始める前に端へチャコペンで軽く印を付けておくと、途中で布を回したあとも迷いにくいです。
先が丸いこぎん針を選ぶ理由
こぎん針は先が丸く、一般的な縫い針より太くて長い針です。
尖っていないので布の織り糸を割らず、目と目の間へ自然に入っていきます。
筆者も最初は手元にあった尖った刺しゅう針で代用しましたが、織り糸を割ってしまい、5cmほど刺したところで目数が読めなくなりました。
こぎん針に替えた途端、針が正しい隙間へすっと落ちる感覚になり、作業の別物感に驚かされます。
この差は見た目以上に大きいです。
こぎん刺しは布目を数えて進める手仕事なので、1本でも繊維を割ると拾う目が曖昧になり、模様の線が崩れます。
先が丸い針なら布を傷めにくく、同じ目を何度も確認しなくて済むので、初回の失敗が起きにくいでしょう。
おすすめです。
こぎん糸と25番刺しゅう糸の使い分け
糸はこぎん糸か25番刺しゅう糸を使います。
こぎん糸は刺し子糸より太めで、刺し目がふっくら立ち上がるのが持ち味です。
同じ図案でも糸の太さで印象が変わるため、まずは「厚みのある線で模様を出したいのか」を基準に見ると選びやすくなります。
細やかな表現をしたいなら25番刺しゅう糸も使えますが、最初の数枚はこぎん糸の存在感がわかりやすいです。
こぎん糸は1本ずつ分けてから揃え直して使うと、ねじれが取れて刺し目が均一になります。
分けずにそのまま刺した1枚と、分けて整えた1枚を並べると、後者は刺し目が平たく広がり、同じ図案とは思えないほど仕上がりが変わりました。
糸の下ごしらえは地味ですが、見栄えに直結します。
糸切りばさみもあると作業が止まらず、気持ちよく進めやすいです。
基本の刺し方|奇数目を数えて右から左へ
こぎん刺しの基本は、図案の中心を先に定め、右から左へ奇数目を数えて刺し進め、1段ごとに布を180度回して糸こきを入れることです。
この3つを外さなければ、初回でも模様の位置がずれにくく、刺し目の流れもそろいやすくなります。
最初に流れを作ってしまえば、あとは同じ動作を静かに重ねるだけで、最後まで刺し切れるはずです。
布と図案の中心を合わせてから刺し始める
刺し始める前に、布と図案の中心を必ずそろえます。
こぎん刺しの模様は中心から左右へ広がる構成が多く、端から始めると、あとで図案の一部が布に収まりきらないことがあるからです。
布を四つ折りにして折り目で中心を出し、図案の中心線と重ねてから最初の1針を入れると、全体の配置が安定します。
このひと手間を省くと、途中で「思ったより右側が足りない」と気づいても戻しにくいのが困りものです。
中心合わせは地味ですが、完成後の見え方を決める土台になる。
最初の印つけをていねいにやるほど、最後の1段まで気持ちよく進めます。
おすすめです。
右から左へ縦糸をすくって進む
刺し方は右から左へ、布目の縦糸をすくいながら進めます。
図案の指示に従って1目、3目、5目、7目と奇数の縦糸を拾い、針を抜かずに数目分をまとめてすくってから引き抜くと、運針に一定のリズムが生まれます。
1針ずつ迷いながら進めるより、流れがつかみやすく、目のそろい方も安定しやすいでしょう。
筆者も最初は、細かい作業に慣れていたせいで糸を強く引きすぎ、刺し目が思ったより詰まってしまったことがあります。
最初のコースターは10cm角のつもりが8cm角ほどに縮みました。
糸をすくう回数よりも、引き具合をそろえる意識のほうが仕上がりに響く。
慣れるまでは、次の目を拾う前に一呼吸置くくらいでちょうどよいです。
1段ごとに180度回転させて糸こきする
1段刺し終えたら、布を180度回転させて次の段へ進みます。
こうすると、常に右から左へ刺す動きだけで済むため、左右で手の動きが変わりません。
筆者は最初、回すのが面倒で左から右へ戻る刺し方を試したことがありますが、刺し上がりを見ると段ごとに刺し目の傾きが違い、光の当たり方で縞のように見えてしまいました。
以来、面倒でも必ず回しています。
回転のあとには、刺し終えた段の糸を指で軽くしごく「糸こき」を入れます。
裏の渡り糸に2〜3mmのゆとりを残すのが目安で、ここが詰まりすぎると布が縮み、多すぎると刺し目がたるみます。
回して、しごいて、また刺す。
この反復が整うと、表の表情も裏の始末もきれいにまとまります。
最初の1枚は10cm角のコースターにすると、運針と糸こきと糸始末の3工程を一通り経験しやすく、おすすめです。
伝統模様「モドコ」の読み方と地域ごとの個性
こぎん刺しの図案は、まずモドコとして読むと輪郭がつかみやすくなります。
複雑に見える模様も、実際には数種類の最小単位をどう並べたかの集まりで、ここを見抜けるかどうかで読解の速さが変わるからです。
図案集を前に迷ったときほど、全体を覚えようとせず、ひとつずつ分解して眺めるのが近道でしょう。
モドコは模様を組み立てる最小単位
こぎん刺しの基礎模様はモドコと呼ばれ、図案を組み立てる最小単位にあたります。
筆者も図案集を初めて開いたときは全体を丸ごと覚えようとして混乱しましたが、教室で「まず豆こだけ探してごらん」と言われて見直すと、複雑に見えた模様が数種類のモドコの反復に分解できました。
そこから一気に読めるようになったのです。
モドコ単位で見る癖がつくと、完成図の印象に惑わされず、どの要素が繰り返されているかを言葉で追えるようになります。
つまり、図案の理解は「絵を暗記すること」ではなく、「部品を見つけること」になるわけです。
覚えておきたい代表的なモドコ
代表的なモドコは、かちゃらず・豆こ・花こ・糸柱・糸流れの5種です。
名前は津軽の生活に根ざした言葉で、豆や花のような身近なものの形を写しているので、呼び名自体が図案の手がかりになります。
単なる暗記ではなく、形と言葉を結びつけて覚えるのがコツです。
たとえば「花こ」という名前が読めるだけでも、図案の中で似た形を探す視点が生まれます。
自分の作品にモドコの名前を添えて渡すようになってから、受け取った側の反応も変わりました。
「花こという模様です」と一言添えるだけで、コースター1枚が土産物から手仕事の贈り物に格上げされる感覚があります。
名前を知ることは、見分ける力と伝える力の両方につながるでしょう。
西こぎん・東こぎん・三縞こぎんの個性
こぎん刺しは、模様の配し方の違いから西こぎん・東こぎん・三縞こぎんの3系統に分かれます。
地域ごとに使える布や糸の質が異なり、その条件が模様の密度や迫力として残ったため、同じこぎん刺しでも見た目の印象が大きく変わります。
図案を読むときは、模様だけでなく系統まで見えると理解が深まります。
西こぎんは岩木川の西側で作られ、細い糸で織った布に刺されたため模様が緻密です。
肩に黒糸と白糸を交互に刺した縞があることから「縞こぎん」とも呼ばれます。
東こぎんは弘前の東側で作られ、太めの糸の生地に小柄なモドコを繰り返して大胆な大柄に見せる総刺しが多く、縞がありません。
三縞こぎんは岩木川下流の地域で作られ、鮮やかな太い三つの縞が特徴です。
現存する作品は数が限られており、資料で確認できる例も多くありません。
3系統を知っておくと、既製品や図案集を見たときに、どの流れを汲む作品かを読み取れるようになります。
単一のモドコを覚え、そこから系統の違いまで見えるようになると、1枚刺した後の広がりがぐっと増します。
つまずきやすい場面と直し方
最初のつまずきは、目の数え間違いと糸の引き加減に集まります。
そこで止まるか、そのまま押し切るかで仕上がりは大きく変わるため、症状を分けて直し方を決めておくと安心です。
玉止めを作らず、裏で始末する流れまで身につければ、途中で乱れても立て直しやすくなります。
目を数え間違えて模様がずれたとき
いちばん多いのは、1段進めたつもりで数目ずれていたケースです。
模様が左右非対称になったり、途中から図案と合わなくなったりしたら、気づいた段までいったんほどいて刺し直すのが結局は最短でした。
筆者も1枚目のコースターで、ほどくのが惜しくて次の段で帳尻を合わせようとしたことがありますが、中心が2目ずれたまま最後まで進み、完成品はそのまま非対称になりました。
あれ以来、迷ったら戻すと決めています。
無理につじつまを合わせると、ずれは次の段、さらにその次へと連鎖します。
被害を1段で止めるには、1段刺すごとに図案と目数を照合する習慣が効きます。
少し面倒に見えても、そこで確認しておけば、ほどく量は最小で済みます。
布がつれる・縮んでしまうとき
布がつれる、縮む、模様がゆがむ。
こうした症状は、裏の渡り糸を引き締めすぎているのが原因です。
段の変わり目で糸に2〜3mmのゆとりを残して糸こきをすると、布が無理なく平らに保てます。
逆に引っ張りすぎると、表の目はそろって見えても、裏で布そのものを引き寄せてしまうのです。
すでに縮んでしまった作品は、糸を軽くしごいて布をなじませると、寸法がある程度戻ります。
洗って繰り返し使うコースターのようなものほど、最初の糸こきが後から効いてきます。
布が平らに置けて、刺し目が無理に食い込まない状態を目安にすると、後半まで安定しやすいでしょう。
糸が割れる・ねじれるとき
糸が割れる、途中でねじれて刺しにくい。
そんなときは、糸を分けずに使っているか、針の先が尖っていることが多いです。
こぎん糸を1本ずつ分けて揃え直し、先の丸いこぎん針に替えるだけで、だいぶ扱いやすくなります。
刺している最中に糸がねじれてきたら、針を垂らして糸を自然に回転させると戻ります。
糸端の始末も、ここで一緒に押さえておきたいところです。
玉止めは作らず、裏の刺し目に数回くぐらせてから切ります。
くぐらせる長さが1cmほどだと、洗って使ううちに浮いてきました。
2〜3cm通すようにしてからは、何度洗っても抜けなくなり、仕上がりの見た目も落ち着きました。
糸が足りなくなった途中でも同じ考え方で、古い糸も新しい糸も裏でくぐらせて続けると、表も裏もすっきり保てます。
初心者向けキットの選び方と次の一歩
初心者がこぎん刺しを始めるなら、最初の1枚はコースターキットがいちばん組み立てやすい選択です。
完成サイズは約10cm×10cmと小さく、数時間で刺し上がるので、最初の達成感を得やすいでしょう。
価格も660円前後からあり、まずは一番安い帯のキットで十分です。
最初はコースターキットが失敗しにくい
コースターは刺す面積が小さいぶん、模様の数え方や針運びを試しながら進めやすい形です。
布・糸・針を単品でそろえる方法もありますが、布は50cm単位で売られていることが多く、コースター1枚に使う量との差が大きくなりがちでした。
最初の1枚で素材を余らせるより、必要な分だけが入ったキットで流れをつかむ方が、迷いが少なく始めやすいのです。
キットの中身をチェックする
キットには、こぎん糸・こぎん針・コングレス生地・図案・説明書が入るものが基本です。
届いたその日から刺し始められるのが強みですが、購入前に針の同梱だけは見ておきたいところです。
糸と布だけのキットもあり、その場合は別途こぎん針が必要になります。
配色は紺地に白糸が定番ですが、ベージュ地に紺糸のように明るい組み合わせもあり、初心者には布と糸のコントラストが強いものが。
刺した目が見やすく、数え間違いに気づきやすいからです。
ℹ️ Note
660円前後の入門キットでも、技法を覚えるための工程はひと通り経験できます。図案が複数入るものや素材が上位のものは1,650円程度まで広がりますが、最初の段階では価格よりも「すぐ刺せること」を優先してみてください。
キットを離れて自分の図案で刺す
キットを2〜3枚刺したら、コングレス・こぎん糸・こぎん針を単品で買い足す段階に移ります。
この頃には必要な道具の見当がついているので、布を大きめに1枚買って好きな図案で刺す方が、1作品あたりのコストを下げやすくなります。
筆者も最初はキットを飛ばして布と糸を単品で買いそろえましたが、布は50cm単位でしか売られておらず、コースター1枚に使ったのはその1割ほどでした。
残りは使い道が決まらないまま引き出しで数年眠ったので、今は人に薦めるときは必ずキットからと言っています。
その先は、ブローチ・くるみボタン・ポーチの一部といった小物が進みやすい流れです。
いずれも刺す面積はコースターと大差なく、仕立ての工程が少し加わるだけなので、同じ10cm角の技術をそのまま応用できます。
筆者はコースターを3枚刺したあたりで同じ図案に飽き、自分でモドコを組み替えてみました。
単品で買った布に好きな配置で刺したその1枚が、いま自宅で一番長く使っているコースターです。
自分の手で選んだ素材と図案で進める楽しさは、ここからぐっと広がります。
インテリアコーディネーター資格を持つミニチュア作家。ドールハウス制作歴10年以上、Creemaでの販売歴5年。風呂敷のラッピングアドバイザー資格も保有。
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